アメリカ事情 酒、タバコ

 私には娘が二人いるが、長女ふみは高校一年生の二学期からアメリカへ留学した。それっきり日本には帰って来ず、大学もアメリカ、就職もアメリカで、そして結婚も日本人とだが、アメリカでして、現在もアメリカに住んでいる。ニューヨークから一時間ほどのエジソンという町である。

 何度か家族と行ったが、七年ほど前、少し長く滞在した。数日もすると退屈になって娘の旦那に聞いた。

「いくちゃん、ここら辺でスナックみたいなところはないかな?」

しばらく間をおいて彼は、「お父さん、ニューヨークに行けば十軒くらいあると思います」

「ニューヨークで十軒?」田舎の諫早でも百軒は下らないというのに、世界最大の都市ニューヨークで十軒とは、耳を疑った。

 また、別の日に娘に、「日本食を食べたくなったので、どこか行こうか」と誘ったところ、みんな大賛成で、その日のうちに行くことになった。

 入ったお店は、まるで日本の居酒屋風だ。注文を取りに来たウェイターにすかさず「ビール」と注文したところ、「ビールはありません」と言うではないか。

残念とは思ったが、たまたま切らしているのかもと思い、「それでは、水割りを」と言ったところ、また、「水割り、ありません」という返事が返ってきた。そんなことはあり得ないと思うまもなく娘が、「お父さん、ここはアルコール置いてないのよ」と説明してくれた。

 造りはどう見ても居酒屋なのにお酒がないなんて、まるでペテンにかかったような気分になったが、近くのテーブルを見渡すと、向こうのテーブルの下に一升瓶のようなものが見えた。娘に、「あれは何かなと聞くと、「お父さん、持ち込みはOKなのよ」と言うから、二度びっくりした!

 別の日に、違う和食のお店に行ったが、また同じような状態だったので、このようなスタイルはアメリカでは例外ではないと知った。

別の機会に、世界最大のスーパーマーケット

「ウォルマート」に見学がてら入った。待ち合わせ時間を決めて、私はビールを目当てに店内を回り始めた。歩けど歩けど、お酒のコーナーが見つからない。足がくたびれはじめた頃ようやく、ビン類がたくさん並んでいる一角を見つけて「やっとあった」との思いで近づくと、それは酒類ではなく、調味料などであった。結局探しあぐねて、待ち合わせ場所に戻ってきて娘に「酒のコーナー、見つけきらんかったよ」言ったところ、「お父さん、ここはお酒置いてないのよ」と平然と言うでないか。

世界最大のスーパーマーケット「ウォルマート」が、地方店とはいえ酒類を置いてないなど、どの日本人が信じるだろうか?

 カジノについても、アメリカではたくさんあるだろうと思って、娘婿に「近くにカジノみたいなところはないかな?」と聞いたところ、

「お父さん、ハイウェイを三時間ほど走れば、インデアンが経営しているカジノがありますが、行きますか?」と、またしても耳を疑うような返事。諫早ですら、家の近くにパチンコ屋が十軒はあるというのに

「カジノはアメリカの象徴で、あちこちにあるだろう」と日本人の多くは思っていると思うが、それは全く違う。日常生活の中にギャンブルはない。

 こんな風に、アメリカではお酒もギャンブルも、日本で思っているのとは大違いで、日本よりもはるかに厳しい。もちろん、アメリカは州や地域によっても法律が違うし、また、私の体験はもう七、八年前のことなので、今は変わっているかもしれないが、いずれにしても、これからアメリカに行こうと思う人は、とくに男性は、心しておいたほうがよいと思う。